HOME > 神奈川のど真ん中16区ニュース一覧 > 神奈川のど真ん中16区ニュース詳細

神奈川のど真ん中16区ニュース詳細

2017年1月9日
【夢たちへ】

本日は「成人の日」。
新成人のみんな、本当におめでとう。
未来とは与えられるものではなく、創るものです。これまでの皆さんの日常の多くは、生育環境や学校から示された「限られた選択肢」の中で「受動的選択」を繰り返す日々だったことでしょう。しかし、これからは違います。世の中には無限の選択肢があります。また新たな選択肢を創造する事も出来ます。「責任を伴う本当の自由」を皆さんは手にするのです。とはいえ、無理などする必要はありません。時には立ち止まってもいいし、誰かに寄りかかったっていい。大切なのは「等身大の自分」としっかりと向き合いながら「鳥の目」で社会を見つめてみることです。そして「成功」よりも「成長」を意識しながら日々を重ねることです。その先には想像もしなかった素敵な未来がきっと待っているから。

私が新成人だった頃を振り返ってみると、本当に未熟な人間でした。ちょっと恥ずかしいけれど、その頃の話をしたいと思います。

当時「成人の日」は毎年1月15日に固定されていました。もちろん故郷から「成人式」の案内を頂きましたが、折もおり、大学の後期テストの前日でした。過去よりも未来の方が大切、と、はじめから出席する意思はありませんでした。そんな私に年始、私を育ててくれた祖父から電話があったのです。

「ひろゆき、成人式は田舎に戻ってくるのか?」
「無理だよ。翌日は大学のテストだし、着ていくものもないし」
「そおか…でも、一生に一回の式典だし」
「いいんだ、もともと追われるように後にした故郷なんだし」
「…なら、じいちゃん、お金を出してやるから、新成人の記念にスーツを仕立てろ。そして記念写真だけは残しておけ」
「…まあ、テストが終わったら、考えてみるよ」

私は気の無い返事をして受話器を置きました。
すると後日、横浜のアパートに祖父から現金書留が届いたのです。封を開けると、書留の中には10万円が入っていました。年金生活者の祖父にとって虎の子の大金。しかし、当時の私は「やった!」と思っただけで、祖父の思いを、重さを正面から受けとめていませんでした。その証拠に…テストから解放された私は、そのお金でスーツを仕立てることなく、借金を返し、欲しかった物を買い、残りは友人らとの交遊に使ってしまったのです…。
そんな私に祖父から電話があったのは、2月半ばでした。

「スーツ、作れたか?」
「う…うん。テスト、終わってからお願いしたからまだ出来てないけど…」
「そうか。記念写真も残しておけよ。一生に一度のことだから。しかし、あの、小さかったひろゆきが、もうスーツを着るようになったのか…。さぞ、立派なんだろうなあ」
「まだ、ガキでスーツなんて似合わないよ」
「でも、じいちゃんは、嬉しいよ」
「ああ…ありがとう…」
「写真ができたら、じいちゃんに送ってくれよ。冥土の土産にするから」
「うん…わかったよ」

私は力なく、電話を切りました。
そして、自分のいい加減さを猛烈に恥じました。大人なんかじゃない。昔と変わらない、いや、もっと悪い「クズ野郎」だ。
自身の余りの情けなさに、涙が滲みました。
このままじゃ、大人になる前に、ダメになる。私は意を決し春休みを肉体労働に費やしました。そして何とかかんとか10万円と横浜から長野までの交通費を貯め、春、本当に久しぶりに祖父が暮らす生家を訪ねました。

「どうしても、じんちゃんに謝らなければならない事があって、戻って来たんだ」
「なんだ、改まって?」
「実は…せっかくお金を送ってくれたのに、俺…スーツ、仕立てなかったんだ。みんな、遊びで使っちゃったんだ。成人だなんてとんでもない、子供以下の、嘘つき人間だよ。じいちゃんの優しさを裏切ってしまって本当にごめんなさい。これ、必死でバイトして貯めた10万円です。返します。本当に、ごめんなさい」

私は10万円を入れた封筒を祖父に差し出しました。
すると祖父は、私に封筒をそっと返し、穏やかに言いました。

「このお金はお前が働いて稼いだお金だ。じいちゃんはいらないよ。ひろゆき、お前はやっぱり、おとなになったんだよ。自分の嘘や過ちを誤魔化さず、必死に働き、こうして何時間もかけて、はるばるじいちゃんの所に来てくれ、正直に話してくれた。スーツよりもずっと、嬉しいよ。それだけで十分だ」
「いや、受け取って貰わないと困る。じいちゃんを騙した事は事実で。受け取って貰わないと、詐欺師のままになってしまうよ」
「お前はまだ、大学が3年間も残ってる。もちろん、じいちゃんも可能な限りは助けるけれど、それでもまったく足らないだろう。自分で稼いだんだから、自分の学業のために、自分のこれからの為にとっておけ。老い先短いじいちゃんには、気持ちだけで十分だ」
「お金の意味が違うよ。受け取ってくれなきゃ、戻れないよ」
「いいから、自分の為に、とっておけ」
「それじゃ、なんのために来たか分からなくなる。受け取ってくれないと、困るよ。お願いだから」

しばらくそんな押し問答が続きました。しかし、それでも祖父は私からお金を頑として受け取ろうとしませんでした。
そこで、弱り果てた私は、祖父に一つの提案をしました。

「なら、じいちゃん…俺と一緒にデパートに行って、スーツを見立ててくれないかい?スーツなんて仕立てた事もないし、どんなのがいいのかも、よく分からないし。ねえ、頼むよ」
「無理をするなよ、ひろゆき。お金はあって邪魔になるもんじゃないんだから」
「ううん、初めてのスーツを、どうしてもじいちゃんと作りたいんだ。お願いします」
「わかったよ。お前は、優しいな…」
「やめてよ、恥ずかしい」

私たちは2人でデパートに出掛け、祖父に初めてのスーツを見立てて貰い、照れながらも店員さんに写真を撮って貰いました。これが…祖父と撮った最後の写真となりました。2年後、祖父は他界しました。

真面目だった祖父の選んだ、ガチガチの紺のベーシックスーツは今もクローゼットの中で、祖父の思いと共に、優しく私を見守ってくれています。

歳が重なったから、大人になるんじゃない。
責任を重ねながら、人は大人になるんだ。

成人の日。今年も心より、みなさんを祝福します。
本当におめでとう、「夢」たち。